巻物

 巻物
 ある日、塾生の父親から封書を受け取った。妙に厚い。開けてみると和紙がグルグルと巻いてある。クルクルと開けてみると、達筆な筆書きで長々といろいろ書いてあった。要約すると
「私は職人である。5000円頂いたら5000円の仕事をし、10000円頂いたら10000円の仕事をする。しかるに、貴殿は月謝を受け取りながら息子の成績は月謝分上がっていない。これはいかなることか!」
 という内容であった。人間は豆腐じゃない。木綿豆腐と絹ごし豆腐のように作り変えろことなんて出来るはずがない。どうかしている。こんな巻物を書いている暇があったらバカ息子の教育をちゃんとしろっての(成績は最悪でした)。
 明らかに私をなめてる。田舎の人って、相手が有名な人だと悲しいほどにヘコヘコする。しかし、自分がお客という立場で有利だと思うと考えられないほど高飛車に出る(人が多い)。
 私は情けなくなった。確かにアパートの一室の小さな個人塾ではなめられても仕方ないのだろう。
「必ず塾を建てる。そして、必ず英検1級に合格する」
 と決意した。自分の立場を上げれば、マシな人たちと接することができるはず。あとでこの考えは間違いだと分かるのだけどね。